湾岸PuddingNight |
PUDDING(ぷりん)(1)
彼女は唐突に、ため息をついた。
「はぁ……、ぷりん……、ぷりんはいいですよねぇ……」
ぐったりと保健室の机に突っ伏しながら、結先生はつぶやいた。
「しょうがないでしょ。ダイエットしてるんだからプリンは我慢しなさい」
見かねた恭子先生はそう言ってコーヒーを飲み干した。
そう、彼女たちはダイエットをしているのである。
結先生のプリン好きが祟ったのか、二人とも体重が増えていた。
『先月より2キロ体重が増えたんでしょ? しばらくはやめときなさいって』
つい先日、結先生が体重を量ったところ、残念ながらそのような数値が表示されたらしい。
それからというもの、二人は一週間近くプリンを口にしていない。
結先生に付き合ってプリンを食べていた恭子先生も体重が増えてしまっていたのであった。
「う〜わかってますよ〜……」
結先生はそう言って立ち上がると、授業のために教室へ向かった━━━。
PUDDING(ぷりん)(2)
「それではきょうの授業はこれでおわりにします〜」
古典の授業を終えた結先生は礼をした。
すると、授業が終わり喧騒に包まれた教室から、一段と大きな声が聞こえてきた。
「ね〜! ほんと〜においしいらしいよ〜、あのプリン!!」
その声の持ち主は天ヶ崎美琴であった。
友人と話をしているようだったが、声が大きすぎた。
「!!!!!! ぷ〜り〜ん〜!?」
結先生に見つかった。
しかもプリン停止中の、である。
彼女はものすごい勢いで美琴に迫った。
「天ヶ崎さん! ぷりんがどうかしましたか!!?」
「え!? えぇっ!?」
あまりの勢いに美琴は言葉を失ってしまった。
しかしすぐに笑顔に戻ると、プリンについて話し始めた。
「え〜とですねぇ〜、悪魔のプリンっていうのがあって、それがすごいおいしいらしいんですよ〜!」
「悪魔の……、ぷりん……ですか?」
悪魔のプリン……。
いったい何のことだろうか。
なおも美琴は続けた。
「どこかに地獄のパティシエっていう人がいて、その人が作った地獄のプリンはすごくおいしいらしいんです!
そのプリンはまるで麻薬のようで、一度食べたらやめられなくなるそうですよ……!」
たかがプリンごときに恐ろしい単語がついている。
しかし美琴は冗談のつもりではないようだった。
「悪魔のぷりん……、ですか……」
うわ言のようにつぶやきながら、結先生は教室を後にした━━━。
PUDDING(ぷりん)(3)
ある日の午後。
結先生は蓮美台学園の廊下を歩いていた。
「悪魔のぷりん……」
いまだに”悪魔のプリン”が頭から離れないようであった。
そこへ、ひとりの少女が話し掛けてきた。
藤枝保奈美、料理が得意で有名な少女だった。
「ククク……、そんなに悪魔のプリンが食いたいか?」
「藤枝さん! あなた……、もしかして”地獄のパティシエ”なんじゃないですか!?」
結先生ははっとした表情で、そう叫んだ。
彼女には確信があったようだ。
料理の得意な藤枝保奈美。
そして、なによりも彼女にはそういったオーラが感じられた━━━。
「そうだ、俺が悪魔のプリンを作った」
「━━━! でも……、わたしは……」
目の前には悪魔のプリンを作り上げた少女、藤枝保奈美がいる。
しかし、結先生はダイエット中である。
プリンを作ってくれなどと頼むことは出来ないのだ━━━。
「わたしは……、ぷりんを食べるのはやめたんです━━━」
結先生は静かに語りだした。
「わたしは毎日ぷりんを食べていました。あともう1個、もう1個。毎日それだけを考えていました。
あるときカフェテリアに自家製ぷりんが登場したんです。
もう無理だとおもったんです。でもやめられなくて……」
うつむき、手をぎゅっと握り締める結先生。
「知らない間に体重は増えつづけ、あるとき体重計に乗ったら……、2キロ増えていたんです……。
それ以来わたしはもうぷりんを食べるのはやめたんです……!」
自分に言い聞かせるように話す結先生。
プリンへの未練を断ち切るかのように。
しかし、保奈美はかすかに笑みを浮かべて言った。
「くくく……、だからどうしたってゆーんだそれが……?
無理だろういくら理屈並べても……。お前はもう知ってしまったんだ悪魔のプリンを。
お前はまた食べるしかないんだヨ」
突きつけられる現実。
いくら誤魔化しても心を偽ることは出来ない。
保奈美はそう言っているかのようだった。
PUDDING(ぷりん)(4)
『お前はまた食べるしかないんだヨ』
揺らぐ心……。
結先生は保奈美の言葉を反すうしていた。
もう諦められたと思っていたのに。
焦点の合っていないような目をした彼女は保健室へ入った。
「あら結じゃな〜い! ちょっと聞いてよ!」
保健室にいたのは恭子先生だった。
他には誰もいないらしく、野々原先生ではなく結と呼んだ。
「ねえねえ! さっき体重量ったら、なんと1キロ減ってたのよ〜!」
「━━━!」
本来なら友人である恭子先生の喜びに付き合うところだ。
しかし結先生はそれどころではなかった。
「ねえ結! もうちょっとがんばれば2キロ取り戻せるわね!」
もう……、我慢の限界だった。
およそ1週間プリンを口にしていない。
毎日プリンを食べていた結先生にとって、それはもう地獄の日々だった。
それが今、爆発する。
「も……、もう一度っ! もう一度、食べちゃダメですか……?」
涙目になりながら、拳を握り締めて、結先生は、叫んだ。
ダイエットに付き合ってくれた恭子先生を裏切ると知りながら。
もう抑えられなかったのだ。
そして、そこへ一人の少女が現れた。
「クククッ……。よく言った。なら悪魔のプリンを作ってやろうじゃねぇか」
保奈美……、である。
地獄のパティシエと呼ばれた彼女は、結先生のその言葉を待っていた。
彼女も料理人である。
自分の作る料理に興味をしめす人間には応えたいのだ。
「藤枝さん……」
結先生はなにか言おうとしたが、すぐに保奈美が続けた。
「いいか、ここ千葉から横浜の俺の店まで来い」
「横浜……?」
もう結先生にためらいはなかった。
地獄のパティシエなどと呼ばれている保奈美の言葉も素直に信用していた。
「もちろんただじゃねぇ。ある人物より先に俺の店に到着すれば食わせてやろう」
「そんな!」
保奈美は有無を言わさず続けた。
「ルートは湾岸市川PAをスタートしてレインボーブリッジがゴール。
ククク……、待っているぜ━━━!」
もう後戻りは出来ない。
プリンを賭けた最高速バトルがスタートしようとしていた……。
PUDDING(ぷりん)(5)
午前1時。
場所は首都高速湾岸線、市川パーキングエリア。
そこにはまるぴんに乗った結先生の姿があった。
「はぁ……、いつのまにかこんなことになってしまって……」
常に制限速度を守る結先生。
しかし、”悪魔のプリン”の話を聞いたのがきっかけなのだろうか、はたまたダイエットを始めたのがそうだったのだろうか。
結先生は最高速バトルをすることになっていた。
「やるしか……、ないんですね……!」
結先生はグローブボックスを開け、スクランブルスイッチを押した。
保奈美の言っていた対戦相手は姿を見せていなかったが、このまま何もしなければ気持ちが鈍りそうだったからだ。
───ピーッ!!
車内にけたたましい電子音が鳴り響き、センターコンソールのモニターには”MODE SELECT”と表示される。
結先生はためらいもなく”WANGAN MODE”を選択する。
すると通常よりも30秒ほど多く、1分30秒でセッティングが自動で完了する。
モニターには”ALL GREEN”の文字━━━。
「湾岸モード、使うんですね……!」
そこには結先生の生徒、久住直樹が立っていた。
━━━━━━数日前のこと。
「恭子先生……、まるぴんの湾岸モードっていったいなんなんです?」
直樹は保健室にいた。
誰もいないことを確認して、まるぴんについて恭子先生に尋ねていたのである。
「久住……。湾岸モード、知ってしまったのね……」
直樹はまるぴんのスクランブルモードのひとつ、湾岸モードについて聞いていた。
めったに使わないスクランブルの中で、湾岸モードはさらに使われることがない。
だからそれを知る者はあまりいないはずなのだ。
「湾岸モードはね、外見上ではカナードやエアダムが出現したりと若干変化があるわ。でも、もっとすごいのはその中身」
恭子先生は淡々と語りだした。
「湾岸モードはNOSを使わないのよ」
「NOSを使わない……? パワーを下げることにどんな意味があると?」
NOSを使わない。
ターボを超えるパワーを手に入れることが出来るNOSを使用しないということは、通常パワーが下がると考えるのは無理もない。
まるぴんの湾岸モードは、超高速域でNOSによる不安定で爆発的な出力特性を避けるためにNOSをオフにする。
しかし、NOSのために余裕を持たせた燃調をギリギリまで詰め、まるぴんのSR20に装着されるツインターボをフルに使いきる。
これによってNOSに比べて安定した加速、そして700psという途方もない出力を得ることになるのである……。
「アレを使えば……、実速320km/h出せるかもしれないわ……」
直樹は愕然とした。
勝負のことではなく、それほど恐ろしいマシーンに、である。
1トンを切る超軽量のボディに700ps。
恐ろしく危険なものになっているはずである……。
「もう……、止めても無駄なんでしょうね……」
直樹は保健室の窓越しに夕日を見つめながら、そうつぶやいた。
PUDDING(ぷりん)(6)
━━━━━━湾岸市川PA
───ドゥドゥドゥドゥ……
規則的なアイドリングをするまるぴんの横に直樹は立っていた。
「結先生。アナタにプリンを食べさせるわけにはいきません。結先生の体重が増えるのを止めます……」
「わたしは……、もう止められません。ぷりんが……ぷりんが待っているんです」
一歩も引かない両者。
やはり走らなければその決着はつかないのだろうか。
「先生、俺は勝ちます。このブラックタービン号でね……!」
直樹は、現代では珍しい空冷エンジンを持つポルシェターボへ乗り込んだ。
結先生は静かに首を縦に振ると、ゆっくりとまるぴんをスタートさせた……。
───シュバァッ!!
まるぴんとブラックタービン号が空を切る。
この日はそれほど一般車両が少ないわけではなかったが、2台はものともせず200km/h級のスラロームを繰り返す。
まるぴんが先頭に立ち、湾岸を疾走する。
それをドライブする結先生はいつもと違った、きりっとした表情である。
『ぷりん……、わたしは知りたい……。最後に食べた春木屋のぷりんと悪魔のぷりん……。どちらが……』
結先生はダイエットを始める前の日、春木屋という店のプリンを食べている。
雑誌でも特集された、評判のプリンである。
彼女は知りたかった。
評判の春木屋のプリン、そして悪魔のプリン。
どちらがおいしいのか━━━ッ!
「結先生に悪魔のプリンを食べさせるわけにはいかない。俺は全力で阻止するッ!」
直樹は5速へシフトアップした。
なんとしても止めたかった。
悪魔のプリンはある種の人間にとっては麻薬のようなものである。
一度魅入られればもうやめることは出来ない。
そのプリンは、まるで身をよじるように震えるという……。
「久住くん……。わたしは悪魔のぷりんを食べてみたいんです。そうすることでしか見えない世界があるから……!」
2台はもつれたまま最高速バトルを繰り返していく……。
PUDDING(ぷりん)(7)
───バシュバシュッ
まるぴんのブローオフバルブが木霊する。
その時、端の車線から合流してくる車があった。
───オアァァァァァーッ!!
激しいエキゾーストノートを響かせながら合流してきたのはR32 GT-R。
恭子先生のドライブする車であった。
「ククク……、まるぴんもやるじゃねぇか。そうまでして悪魔のプリンを食いたいというわけだ」
32Rのナビには伝説のパティシエ、保奈美が座っていた。
付かず離れず。
恭子先生はバトルに参加するようには見えない。
「今回のバトルに限っては、私は傍観者。結になにかあった時、助ける人がいなくちゃね……!」
「フ……、それだけじゃねぇ。今夜のあの2台の間に入れる奴なんてどこにもいねぇのさ」
以前前を疾走するまるぴん。
そこから半身、車体をずらして追走するブラックタービン号。
恭子先生のドライブする32Rはその少し後ろを走っていた。
「車体を半身ずらす……。目の前でアクシデントが起こってもすぐ対応できる体勢にいるわけだ。
あいつが湾岸の帝王を名乗っているのは伊達じゃねぇのヨ」
保奈美はブラックタービン号のドライブを見て言った。
黒い怪鳥とも呼ばれるブラックタービン号は湾岸の帝王である。
それをドライブする直樹がまるぴんに迫る。
「結先生、それじゃあダメだ。そのドライブではこの湾岸の帝王から逃れられはしないっ! 撃墜させてもらう━━━ッ!」
前にはトラックが2台。
結先生はどこを抜けるか、一瞬迷った。
ほんの一瞬、コンマ数秒にも満たない時間であったが、直樹がそれを見逃すことはなかった。
───シュバァッ!!
ブラックタービン号はまるで横っ飛びするかのようにまるぴんの横へ並び、そして一気にオーバーテイクしていく!
「━━━!」
虚を付かれた結先生はなすすべもなくブラックタービン号に道を譲るしかなかった。
2台は入れ替わり、まるぴんはブラックタービン号の後ろを走ることとなった。
そして2台のモンスターはさらなる加速をしていく━━━!
PUDDING(ぷりん)(8)
前を走るブラックタービン号。
それを追走するまるぴん。
そして2台を見守るかのように走る白い32R。
最高速バトルは終盤戦、レインボーブリッジにさしかかろうとしていた。
まるぴんは離され、ブラックタービン号の快走が続いていた。
しかしレインボーブリッジの手前のあたりで、まるぴんの動きが変わった。
───ガリュオアァァァァァーッ!!
耳をつんざくエキゾーストノートと共に、まるぴんはさらなる加速を始めた。
お互いフルスロットル。
スピードメーターの針は250km/h台に頻繁に飛び込む。
不利だと思われるまるぴんは、この状況でなおブラックタービン号に迫っていく。
直樹は焦りを感じていた。
「くっ……、こっちは全開だというのに……。まるぴんはいったい何km/h出ているんだ!?」
結先生は、まるぴんから不思議な感触を得ていた。
いつもより車体が軽く感じる……。
回りにくいと言われたSRエンジンがやけに軽やかに回る……。
「まるぴん……、いくらなんでも速すぎない……?」
そんな恭子先生の言葉に答えることもなく、保奈美は難しい顔をしていた。
プリンマジック……だ。
「俺は奇跡とか信じないんだヨ。だがな、あのまるぴんはまさに奇跡が起こっているとしか言いようがない━━━」
保奈美は目の前の光景を見て言った。
フル加速していくポルシェターボに迫るマーチ。
通常ではありえない光景だ。
しかし━━━、事実だ。
「どっちなんですか? いったいどっちがおいしいんですか? 春木屋のぷりん……、そして悪魔のぷりん━━━ッ!!」
レインボーブリッジ、オールクリア━━━ッ!
───ゴゥオァアッ!!
今夜はレインボーブリッジを走る一般車両はいない。
一度きりの、最高の、夜。
もう二度と来ないシチュエーション。
地上を走る、まさに戦闘機たちは加速していく。
『あと1個。あともう1個。それしか考えられなかった……。完全にやられていました。
でも、ジャンキーにならなければ見えない世界がある。それもまた真実です……。
最高の、とびきりのぷりんを求めた日々。やっぱりそれを忘れることはできないんですッ!』
まるぴんは加速する。
260km/h━━━。
270km/h━━━。
加速は止まない。
『常軌を逸している。普通の人間からすれば、明らかに狂っている行為。
プリン、ただそれだけのためにこの常軌を逸したスピードで走る。
しかし、悪魔のプリンに魅せられた者にしか、わからないことがある。
この、まさに飛行速度で走る者だけが理解する事実━━━』
ブラックタービン号はバックミラーに映るまるぴんの影を見ていた。
徐々に大きくなるまるぴんの姿を……。
「本当に……、恐ろしい車だ。このブラックタービン号に追いついてくるとは……。
しかし、伊達に湾岸の帝王と呼ばれている俺ではない。迎撃するッ!!」
PUDDING(ぷりん)(9)
───シュバァッ!
最高速バトルの終焉であるレインボーブリッジ。
今まさに決着がつこうとしていた。
恭子の32Rはすでに2台のはるか後方にいた。
「もう! 見えなくなっちゃったじゃない! パワーなさすぎよ!」
恭子の叫びに対し、保奈美は答える。
「ククク……、ちゃんとパワーは出てるじゃねぇか。このRだって500馬力でてるんだからたいしたものだゼ?」
そう━━━、500馬力も出ている。
しかし、前を行く2台はそれ以上に速すぎた。
『結……、しばらくはやめましょう。プリンを食べるのは』
結先生はダイエットを始めるときの、恭子の言葉を思い出していた。
しかし、彼女を止めることはもうできなかった。
そして、叫んだ。
「わたしはッ……! もう、体重が増えても━━━」
『結先生、ちょっと太ったんじゃないですか?』
結先生はハッとして、久住直樹のその言葉が頭に浮かんだ。
彼女がダイエットを始める、一番最初のきっかけ。
もう忘れた……、いや、思い出さないようにしていた言葉。
その言葉を聞き、結先生は泣いた。
今、再び涙を流す。
そして━━━、アクセルを抜く……。
───ボゥワァアァ
悲しいエキゾーストが響く。
「エンジントラブル……!?」
恭子先生の問い。
「いや……、車じゃねぇ。ココロが……ナ」
恭子先生に答えたのか、はたまた独り言なのか。
保奈美の言葉。
「……」
ついにトップを走りきったブラックタービン号も、ここまでと減速する。
そして直樹はつぶやく。
「こっちはメーター読みで320km/h出ていた。なのにまるぴんは追い上げてきていた……!」
PUDDING(ぷりん)(10)
3台、4人は保奈美の店に来ていた。
「えうっ……、うっ……、うぁあぅっ……」
結先生は……、泣いていた。
あの幻かとも思えた最高速バトルのあと、ずっと。
悪魔のプリンを獲得できなかったこと。
直樹の言葉を思い出したこと。
そして最後の最後で踏み切れなかった悔しさ━━━。
「ククク……、一番速かった者、悪魔のプリンはなおくんのモノというわけだ」
非情な保奈美の言葉。
それに直樹が返す。
「プリンは俺のものなんだよな。ならばどうしてもかまわないな?」
「もちろんだ。悪魔のプリンをどうしようが、なおくんの勝手だヨ」
直樹の意図がわかっていたのか、保奈美はそう答えた。
「うぅっ……、ぐすっ……。 怖かったんです。これ以上体重が増えて久住くんに嫌われたらどうしようって……!
ぐすっ……、んぅっ……、だからあれ以上走れなかった……」
泣きながらも、結先生は想いを打ち明けた。
プリンを食べたい気持ち、そして直樹に嫌われたくないという気持ち。
その二つの気持ちに迷い、アクセルを抜かざるをえなかった。
直樹はそんな結先生に優しく語りかける。
「結先生、悪魔のプリンを……、食べてください。」
「えっ?」
直樹の言葉に驚く結先生。
結先生に食べさせまいとして、あれほどのバトルを演じた直樹。
しかし結先生の泣き顔を見てしまえばそういうわけにもいかなかった。
直樹はプリンを差し出した。
「うぅ……、ありがとうございます……。んぅ……、春木屋のぷりんよりも……、おいしい……。ぐすっ」
涙を流しながらも、結先生は嬉しそうだった。
保奈美も、そんな彼女を見て微笑んでいた。
「(*´д`*)」
湾岸PuddingNight 〜FIN〜
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